
第1回 人溶かし草 むかしむかし。
五兵衛さんという樵夫がいてね
高い木の上で
ぜこぜこぜこ
枝伐りしていましたと。
旅の薬売りが
荷物を背負って
とことことこ
木の下を歩いていきました。
そのうしろから
ぶっとい大蛇が
するするする
滑っていって
見る間に追いついたかと思ったら
ああ一息に
旅の薬売りを
呑んでしまったんだって。身体より大きい
人間を呑んで
よたりよたりよたり
大蛇はヤブに入っていきました。
そして
丸っこい葉っぱのついた草を
ぺろりぺろりぺろり
首を立ててなめましたと。
そしたらね
風船みたいにふくらんでた腹が
しゅうしゅうしゅう
もとのように縮まったんだって。
「あれ、大蛇、人食った。
して、あの草なめたれば
すっかりもとにもどったや。
あの草は腹の中のものを
溶かす草なんだっけな」
五兵衛さんはたまげましたと。そのころね
近くの町で
ソバ食い競争がありました。
一等賞は米一俵のご褒美です。
あの人もこの人も
ぞくぞくぞく
腹を減らしてあつまりました。
ヨーイ、スタート
五兵衛さんの顔も見えますよ。
食った食った食った
空のお椀が山のよう。
そして五兵衛さんが一等賞。
三百三十三杯
がつがつがつ
食いに食いましたと。
太鼓のような腹をかかえて
五兵衛さんは
よたりよたりよたり
歩き出しました。
友達が心配してね
肩を貸してくれましたが
五兵衛さんは
その手を振り払って
ずんずんずん
山へ入っていきましたと。
あの丸っこい葉っぱを食べにね。
あれさえあればもう大丈夫。晩方になって
お月さまが山の上を
かあかあかあ
照らしはじめました。
でも五兵衛さんは帰ってきません。
みんな心配してね
山へ探しにいきましたと。
そしたらね、
丸っこい葉っぱのついた草が
いっぱい生えたヤブのなかに
ひらひらひら
五兵衛さんの着物だけが
風にゆれていましたと。大蛇がなめた丸っこい葉っぱ
あれはね
とろとろとろ
人を溶かす葉っぱだったんだって。
五兵衛さんは溶けてしまって
食ったソバだけ
そっくり残っていたんだって。
小野和子/1934年岐阜県高山市に生まれる。東京女子大学日本文学科卒業。1958年から宮城県仙台市に住む。
・みやぎ民話の会代表。日本民話の会運営委員。日本児童文学者協会会員。宮城県教育委員会委員。
・1993年宮城県児童文化おてんとさん賞受賞。
・著書
主な編著書
「長者原老媼夜話」(評論社)。
「遠野郷宮守村の昔ばなし」(共編・遠野市世界民話博実行委員会)
「宮城県の民話」(日本児童文学者協会編 地元責任編集者・偕成社)
「宮城県の民話─宮城県文化財調査報告書第130集─」(みやぎ民話の会編 編集責任者・宮城県教育委員会)
「ひかりのたね─あの時代を生きた少女の日記─」(汐文社)
「みちのく民話まんだら」(北燈社)ほか。
主な児童書
「ちちんぷいぷいとんでいけ」(汐文社)。「たからげた」(ほるぷ出版)。
「七つ森」(草土文化)。「さけのさんたろ」(第一法規)。
「おけやのゆめ」(文研出版)ほか。
主な翻訳書
「ちびぞうトト」(評論社)。「時をさまようタック」(評論社)。
「とどろく雷よ、わたしの叫びをきけ」(評論社)。
「ママにグッバイ」(評論社)。「すからおちたこすずめ」(評論社)ほか。