
第2回 ちり ほこり ごもく むかしむかし
ある大きな百姓家に
三人の手間取り男が働いていた
三人は親からもらった
りっぱな名前をもっていたけれど
ここの旦那どのは
お前だちに名前なんかいらねぇ
ちり ほこり ごもく(ごみ)
こう呼ぶことにすべぇ
と言う
いつも三人ひとからげに
ちり ほこり ごもく
と呼びつけて
牛馬よりもこき使ったあるとき旦那どのは
三人に言いつけた
ちり ほこり ごもく
山さ行って
一人一駄(一頭の馬に背負わせる荷)づつ
木ぃ伐ってこうっ
まだ雪の残る山道を
馬一頭づつ曳いて三人はのぼった
そして
ぜっこぜっこと木ぃ伐って
暗くなってからおりてきた
その夜
布団に入って
ちりがつくづくとなげいた
朝から晩まで稼がせらって
せつねぇこたぁ
一度でいいから
目ぇ覚めるまで寝ていてぇ
それからよ
納豆餅のつるつるってのと
あんこ餅のとろとろってのと
腹一杯食ってみてぇ
これを聞いて
ほこりも負けずに言った
おれは餅よか酒っこだな
飲みたい放題に
油みでぇな酒飲んで
三日三晩眠りてぇ
餅だ酒だとさわぎながら
ちりとほこりは
黙っているごもくのほうを見た
なんだ
お前もなんか言えっちゃや
願い事を語ってみろ
語れ語れ
せっつかれて
ごもくは低い声で言った
おれの願い事は
お花さんの婿になることだ
これを聞いて二人は
腰抜かすほどたんまげた
お花さんって
旦那どのの一人娘でねぇか
ほだなこと言うもんでねぇぞ
旦那どのの耳さ入ったら
なんとする
おっかねぇおっかねぇ
ちりとほこりは
頭から布団かぶってしまったところが
地獄耳の旦那どの
障子の外で
三人の話をすっかり聞いていた
つぎの朝になると
ちり ほこり ごもく
三人を呼んで座らせた
お前だち
昨夜はなにを喋ってた
正直に語れば
願い事をかなえてもいいぞ
こう詰め寄られて
ちりは
腹一杯の餅が食いたいと言い
ほこりは
浴びるほど酒っこ飲みたいと答えた
そしてごもくの番になると
ごもくは
きっぱりと言い放った
おれはお花さんを
嫁にしてぇ
旦那どのはにやりと笑った
いい度胸だ
そんならお花と歌競べしろ
歌競べに勝ったら
お前の願いを聞くが
負けたら
一生ただ働きさせっからな
ただ働きと聞いて
ちりとほこりは縮み上がったお花はうつくしく身支度して
姿を見せると
さっそく歌いあげた
岳百合の山より高く咲く花を
嫁にしたいと言うかごもくよ
ごもくはすかさず歌い返した
はなばなと山を飾って咲く花も
散ればごもくの下になるわい
旦那どのはびっくりぎょうてんした
うーんと頭をかかえて
しばらく口もきけねぇ
だが約束は約束だ
しぶしぶお花を渡したそうだ今日はごもくとお花の祝言の日
ちりは納豆餅とあんこ餅を
たらふく食べ
ほこりは飲み放題に酒飲んで
めでためでたの
わかまつさまよ
三日三晩歌い明かした
お花はごもくに寄り添って
ごもくはお花の手をとって
まずはめでたしめでたしでござった
小野和子/1934年岐阜県高山市に生まれる。東京女子大学日本文学科卒業。1958年から宮城県仙台市に住む。
・みやぎ民話の会代表。日本民話の会運営委員。日本児童文学者協会会員。宮城県教育委員会委員。
・1993年宮城県児童文化おてんとさん賞受賞。
・著書
主な編著書
「長者原老媼夜話」(評論社)。
「遠野郷宮守村の昔ばなし」(共編・遠野市世界民話博実行委員会)
「宮城県の民話」(日本児童文学者協会編 地元責任編集者・偕成社)
「宮城県の民話─宮城県文化財調査報告書第130集─」(みやぎ民話の会編 編集責任者・宮城県教育委員会)
「ひかりのたね─あの時代を生きた少女の日記─」(汐文社)
「みちのく民話まんだら」(北燈社)ほか。
主な児童書
「ちちんぷいぷいとんでいけ」(汐文社)。「たからげた」(ほるぷ出版)。
「七つ森」(草土文化)。「さけのさんたろ」(第一法規)。
「おけやのゆめ」(文研出版)ほか。
主な翻訳書
「ちびぞうトト」(評論社)。「時をさまようタック」(評論社)。
「とどろく雷よ、わたしの叫びをきけ」(評論社)。
「ママにグッバイ」(評論社)。「すからおちたこすずめ」(評論社)ほか。