第3回 屁ったれ嫁さん

むかしむかし
まじめにはたらく息子とかあさんと
二人で暮らしていたと
なにせ貧乏なものだから
嫁さんのきてがなくて困っていたと

そしたら
世話する人があって
山かげの村から、いい嫁がきてくれた
名前をおならといった
身体はいいし、まじめだし
気立てもやさしいし
願ってもない嫁さんだったと
ところが、しばらくすると
おならの顔色が青くなって
ご飯も食わず、がおっていくんだと
  おならや、おならや
  あんべえでもわるいのか
かあさんは心配してたずねたと
すると、おならはこたえたと
  わるいどこはねえけんど
  屁をこらえてるので……
  なぁんだ、そったなことか
  遠慮すっことねえから
  たれろ、たれろ
  出もの、腫れものは
  はやく出したほうがええ
  我慢すっことねえから
  さあ、たれろ、たれろ
かあさんは笑ってはげましたと
  ほんなら、かあさん
  柱さ縄まいて、ぎっちりと
  つかまっててけさいん
おならはたのんだと
  まず、おおげさだこと
  屁たれるくれえに
  そだなことすっことねえでば
つっただけんども
おならがあんまりたのむから
かあさんも負けて
柱さ縄まいてつかまったと
  んでぇ
  ごめんなしてけらえん
こういったかと思うと
たまげてでかい屁の音たてて
ぶっぱなしたと
その屁にとばされて
かあさんは縄にくっつかったまんま
天旗(凧)みたいに舞いあがって
降りてこられねえんだ
そのうち、やっと屁がとまったら
こんどは、どでーんと下さ落ちて
腰ば痛めてしまった
  たまげた屁だ
  おれは、おまえの屁で殺される
  せっかくのいい嫁だけんど
  家さ置くわけにいかねえ
  悪りぃけんど実家さ帰ってくれ
と、まあ、こういうことになって
おならは息子に送られて
しょぼしょぼと
山かげの村さ帰ることになったんだと

ちょうど夏の暑い日で
ずっと山道を行ったれば
てっぺんに梨の木があって
その日陰で休んでいる人たちがいたと
十頭からの馬に反物つけた呉服屋で
馬方たちもいて
梨に石ぶつけて落とすべとしても
高くてとどかねえんだと
おならはふふっと笑った
  大の男が四人も五人もして
  梨とれねえのかや
  おれなら、こんなもの
  屁一発でみな落としてみせる
これを聞いた呉服屋の旦那は
  でかいこと、ぬかしおって
  とんでもないやつだ
  それがほんとなら
  この反物みんなくれてやる
つったんだと
  ほんだらば、やってみっぺ
おならは梨の木の下さ行って
四つん這いになって、お尻高くして
  ドィーン ドィーン
屁ぇたったところ
ああ、梨の実から、葉から、枝から
全部ふっとんで落ちてきた
  さあ、約束だから
  馬の荷もらうぞ
つったら、旦那は青くなって
  なんぼでも銭払うから
  かんべんしてくれ
ぺこぺこ頭さげるんだと
  おれだって、お尻ひったくって
  屁ぇするの、命懸けのことだ
  荷物よこさねえなら
  おまえがたを屁でぶっとばす
おならが屁のかまえしたので
旦那はおっかなくなって
馬と荷物をよこして逃げたんだと
反物いっぱい持って
かあさんにさしだしたら
  屁ぇたって、こんなに儲けたか
  これこそ宝嫁だっちゃ
  どうぞ、一生ここにいてくれ
と、まあ、こういうことになって
めでたくおさまったんだと

息子はおならのために
じょうぶな囲い屋をつくって
思いっきり屁をさせた
それを屁屋(へや)といって
部屋のはじまりは、これなんだと
ところが、勢いあまって
畑の茄子だの豆だのふっとばして
隣の家から苦情がきたと
そこで、屁屋の回りを土壁で囲んだ
それを屁囲(へい)といって
塀のはじまりは、これなんだとさ
     はい めでたし めでたし


小野和子/1934年岐阜県高山市に生まれる。東京女子大学日本文学科卒業。1958年から宮城県仙台市に住む。
・みやぎ民話の会代表。日本民話の会運営委員。日本児童文学者協会会員。宮城県教育委員会委員。
・1993年宮城県児童文化おてんとさん賞受賞。


・著書
主な編著書   
 「長者原老媼夜話」(評論社)。
 「遠野郷宮守村の昔ばなし」(共編・遠野市世界民話博実行委員会)
 「宮城県の民話」(日本児童文学者協会編 地元責任編集者・偕成社)
 「宮城県の民話─宮城県文化財調査報告書第130集─」(みやぎ民話の会編 編集責任者・宮城県教育委員会)
 「ひかりのたね─あの時代を生きた少女の日記─」(汐文社)
 「みちのく民話まんだら」(北燈社)ほか。
主な児童書
 「ちちんぷいぷいとんでいけ」(汐文社)。「たからげた」(ほるぷ出版)。
 「七つ森」(草土文化)。「さけのさんたろ」(第一法規)。
 「おけやのゆめ」(文研出版)ほか。
主な翻訳書
 「ちびぞうトト」(評論社)。「時をさまようタック」(評論社)。
 「とどろく雷よ、わたしの叫びをきけ」(評論社)。
 「ママにグッバイ」(評論社)。「すからおちたこすずめ」(評論社)ほか。


・バックナンバー・