
第4回 姥捨て山(うばすてやま) むかし
年とって六十二になると
山さ捨てたんだって
役に立たないからって捨てたんだってあるところに
おばんつぁんと息子夫婦と三人で
暮らしてる家、あったんだと
おばんつぁんが六十二になると
息子の嫁さん、いうんだと
あんだ、おばんつぁんを
姥捨て山さ捨てらいん
はやく連れてって
置いてございん
置いてございん
息子は、捨てるのやんだくて
山さ行かねんだと
そうすると、嫁さんは怒って
息子が山稼ぎさ行くときに
弁当の飯へらしたり
お菜入れなかったり
当だり(扱い)わるくすんだと
んでぇ、捨ててくんべやぁ
とうとう、息子は
おばんつぁんをおぶって
捨てにいったんだと
姥捨て山まで来ると
萓刈って、萓小屋つくって
そのなかさ、おばんつぁんを置いて
火つけて、わらわら逃げ帰ったと
萓小屋のおばんつぁんは
じっとしてたっけぇ
だんだんに熱くなってきたんだと
こりゃ あっつい
こりゃ あっつい
大汗出たから、着物の裾ば
ぐえらと上げて、股、ひろげて
風入れていたんだと
したら、そこさ、鬼の子どもだち
ちょこちょこ出はってきて
口をそろえていうんだと
ばあさま ばあさま
その股の下の大きい口は
なに食う口だ
おばんつぁんは、にかにか笑って
なあに 鬼ども来たら
べろり食う口だ
って、おどかしたから、鬼っ子だちは
とろぐさっぽう(一目散に)
逃げ帰ったと
すこしすると、こんどは
大鬼三匹来たんだと
ばあさま ばあさま
その股の下の大きい口は
なに食う口だ
って、またきくんだと
なぁに 鬼ども来たら
べろり食う口だ
めらめら燃える炎のなかで
大股ひらいて気張っているんだもの
さすがの鬼ども、どでん(動転)した
ばあさま ばあさま
食わねえでけろ
食わねえでけろ
そのかわり、こいつあずけるから
こういって、打ち出の小槌ば
置いていったんだと
おばんつぁんは、小槌をふってみたと
家ほしい 家ほしい
すると、ちゃんと立派な家が出たと
こんどは、用たしてくれる人が要る
下男出ろ 下女出ろ
はいはいと返事して、下男に下女が
ちゃんちゃんと飛び出した
けれど、こんな山のなかでは
さびしくてたまらない
町出ろ 町出ろ
さぁ、賑やかな町が
たちまちあらわれて
大勢の人が行ったり来たり
おばんつぁんは、下男と下女ば使って
毎日、日なたぼっこして
のどかに暮らしてたんだとそうしているうちに
年越しの日がやってきたと
たきぎー たきぎー
雪のなかを
大声あげて売り歩いてるので
見たらば、息子と嫁であったと
買ってやれ 買ってやれ
二人が背負ってた薪をみんな
買ってやったんだと
ところが、嫁さんは
どうもおかしいと首をかしげた
あれは たしかに
おら家のおばんつぁんだった
おばんつぁん、あんなに福しくて
いいこと いいこと
姥捨て山さ行って
福しくなるもんだら、おらも行く
おらも山さ捨ててけろ
こういってきかないんだと
息子がとめても
おれどこ、山さ捨てろ 捨てろ
毎日、せがむんだと
あんまりいうから
息子も根負けして
姥捨て山さおぶっていって
萓のなかさ入れて、火つけたんだと
したっけぇ、嫁さんは
そのまんま
焼け死んでしまったんだと
息子はひとりぼっちになるし
嫁さんは死ぬし
おばんつぁんばり、いつまでも
しあわせに暮らしたんだとさこんで えんつこ さけた
小野和子/1934年岐阜県高山市に生まれる。東京女子大学日本文学科卒業。1958年から宮城県仙台市に住む。
・みやぎ民話の会代表。日本民話の会運営委員。日本児童文学者協会会員。宮城県教育委員会委員。
・1993年宮城県児童文化おてんとさん賞受賞。
・著書
主な編著書
「長者原老媼夜話」(評論社)。
「遠野郷宮守村の昔ばなし」(共編・遠野市世界民話博実行委員会)
「宮城県の民話」(日本児童文学者協会編 地元責任編集者・偕成社)
「宮城県の民話─宮城県文化財調査報告書第130集─」(みやぎ民話の会編 編集責任者・宮城県教育委員会)
「ひかりのたね─あの時代を生きた少女の日記─」(汐文社)
「みちのく民話まんだら」(北燈社)ほか。
主な児童書
「ちちんぷいぷいとんでいけ」(汐文社)。「たからげた」(ほるぷ出版)。
「七つ森」(草土文化)。「さけのさんたろ」(第一法規)。
「おけやのゆめ」(文研出版)ほか。
主な翻訳書
「ちびぞうトト」(評論社)。「時をさまようタック」(評論社)。
「とどろく雷よ、わたしの叫びをきけ」(評論社)。
「ママにグッバイ」(評論社)。「すからおちたこすずめ」(評論社)ほか。