プロフィール

・第2回『蛸薬師』・

  平成15年5月3日稀に観る炎天下の長町の大通り、大人たちの勇壮な神輿(みこし)の後を可愛い子供神輿が「ワッショイ」の声も高らかに練り歩いた。その名も蛸神輿。手作りのひょうきんな蛸が子供達の声に合わせて練り踊る。昔から変わらぬ長町の風物だ。でも、蛸薬師(たこやくし)って何だべ?

 子供の頃に味わった神杜の祭りはこんなだったなあ…と懐かしく、うれしくなってしまう昔ながらの神杜のお祭りが、林立するビル群の只中にしっかりと残っていました。
 「商売繁盛!」「家内安全!」と、神様に成り代わって唱えては、氏子の店や民家を巡り歩く神輿と獅子舞。笑いさざめきながら屋台の立ち並ぶ祭りの境内をかけまわる子供達。そして、神様に自然に手を合わせる幼子達。こんな懐かしい神社の祭りが、長町の表通りから通りひとつ隔てただけの場所に、今も変わらず展開していたなんて知ってました?
 鳥居で挨拶して境内に入ると、正面に氏神様たる五男三女神八幡様をお祀りする舞臺八幡神社の御社。そして向かって右側少し奥に蛸薬師様をお祀りする御堂。神様と薬師如来様が同じ敷地内におわします。この薬師様の本名は淵上薬師瑠璃光如来とおっしゃるのです。どうやら蛸様は宇宙(如来の如とは字宙つまり命の世界と言うことで、如来とは宇宙より降ったという意味です)から来た瑠璃色に光り輝く薬師様の『お使い』だったようです。



 昔々、仙台地方を昭和の宮城県沖地震よりも大きな地震が襲いました。大津波が起きて長町の辺りまでが水浸しになってしまいました。その水がやっと引いたとき、味噌醤油を売っていた川村と言う方の家の裏庭の池に蛸に吸い付かれた薬師様の像が流れ着いて居ました。それでその薬師様を蛸薬師様とも呼んで、お祀りする様に成りました。
 さて、長町に親孝行で働き者の娘がおりました。けれど娘にはひとつ悩みが有りました。手の甲から腕にかけて大きな沈(いぼ)が出来たのです。それを悪童たちにいつもからかわれては泣く日が続き、いつか手を隠しては人の目を気にするオドオドした娘になっていました。可愛い顔は悲しみにくれてばかり。町のお医者に診せても治る気配はありません。



 ある日、娘はその日もまたからかわれて一人広瀬川の川辺にうずくまり泣いていると、「おやおや。どうして泣いてるんだね」と声をかけられました。おどろいて後を見ると、いつの間にか見知らぬ旅のお坊様が立っています。
 お坊さんは「ヨイショ」と娘のとなりに腰を下ろすと、「どうして泣いていたのか、拙僧にも教えてくださらんかな。こんなあたたかいのに手をグルグルまきにしてるが、どうしたね」と、尋ねながら布で隠した手を優しく両手で包んでくれました。風が心地よく吹いています。鳥が優しくさえずります。そしてお坊様のニコニコとした笑顔に娘は心が晴れやかになり哀しい気持ちがドンドン消えていきます。知らず知らず笑顔が娘の顔にあふれて来ました。お坊さんの背後から光が差し込み、娘にはまるでお坊さんが輝いているように見え、まぶしくて思わず娘は眼を閉じました。お坊さんがソッとささやきました。
 「よいかな。蛸薬師さんにお願いするんだよ」



 「エッ?」
 娘が眼をひらくと、今の今までとなりにすわっていたはずのお坊さんの姿が有りません。
 でも、手にはまだお坊さんのあたたかなぬくもりが残っています。
 「お坊様」「お坊様」…娘は大声で呼んでみましたが、お坊さんは二度と娘の前に姿を現しませんでした。
 娘はお坊さんに、言われたことを思い出し、蛸薬師様に願をかけました。
 「お薬師様。どうかこの疣を取って下さい。お願いします」
 一生懸命お祈りをしていると、閉じたまぶたを通してやわらかな光にやさしく包み込まれるのがわかりました。光のあたたかさに、「ああ、あのお坊様はお薬師様のお使いだったのかも知れない」と娘は思いました。
 布を外すと、不思議な事に、あれほど大きな疣があとかたも無く消えていました。
 そうして、また以前の明るい娘がもどったと両親はたいそうよろこび、蛸薬師様に豆を供えて娘と一緒にお礼参りをしました。
 それ以来、『疣に霊験あらたかな蛸薬師様』として長町に住む人々に長く崇敬され続けているのです。



 疣を取って欲しい…と願を掛けるときに忘れては成らない事は、疣が取れるまで蛸絶ちをする事だそうです。そして勿論願成就の砌には豆をお供えしましょう。






手作り蛸神輿 ワッショイ!


昔の写真じゃありません


獅子舞に噛まれると縁起がいいんだヨン


おしまい

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